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龍善堂「炭定規すみじょうぎ

茶道具の目利きが
信条を込める信頼の証の「炭定規」。

炭を炉に合うよう切り出すときに用いる「炭定規」。左が夏の風炉用、右が炉用。都随一のにぎわいを見せる四条河原町の交差点。その西北にあるビルの、地下へと続く階段を下りていくと、自動扉の向こうには街なかとは思えない穏やかな空間が広がっている。美しく並べられた趣ある茶道具たちに、壁一面に備え付けられたどっしりと重厚感のある茶箪笥。そして、振り返って見れば侘びた茶室が静かに佇んでいる。「龍庵」と扁額が掲げられたこの庵について聞けば、「私の祖母宅にあったものを、ビルを建てるときに父が移築したんです。もちろんお稽古や茶会もできるんですよ」と当主の長田光彦さんが答えてくれた。繁華街の地下に茶室があることに驚かされるが、しっとりと自然な趣を見ていると、降りてきた階段が茶庭の露地だったようにも思えてくる。

政年間(1781~1801年)創業の茶道具店「龍善堂」は、四条通のなかでも一、二を争う老舗。初代のころからこの地にあったと伝えられており、現当主で八代目となる。三千家があり、茶道の聖地ともいうべき京都に在って、茶道具の専門店といえば、茶席のコーディネーターの役割も担っている。ましてや茶の湯は道具やその取り合わせの妙を楽しむもの。今回、商売を象徴する道具の紹介を依頼するにあたっても、どんなにか歴史ある品が出てくるだろうと思いきや、目の前に取り出されたのは二本の真新しい竹のものさし。記者がよほど怪訝な顔をしたせいか、長田さんが笑いながら聞かせてくれた。「長くこの商売をさせていただいているので古いものもいくつかあるにはあるのですが、うちを象徴する、という意味ではこの炭定規がぴったりに思えるんです」。

定規というのは、湯を立てる際に使う炭を決められた寸法通りに測るための道具。炭は夏場の風炉のときは短く、炉には長めのものが用いられ、種類と用途によって大きさもさまざまに異なる。定規に刻まれた切り込みを炭にあててその通りに切り出せば大きさがそろうという寸法だ。いまでは炭の専門業者があらかじめ切りそろえて納品してくれるが、以前は炭を整えるのも茶道具商の大切な仕事の一つだった。「私の子どものころには一家総出で“炭を切る日”というのがあり、大仕事だったんですよ」と長田さん。「茶の湯というのは、火あってこそのもの。いわば炭は基本中の基本です。また、姿が美しく、使い勝手がよく、大切な釜を損ねない質の高い炭を見極めるのも、やはり茶道具商にとって大前提の基本なのです」。商売の初心を忘れないためにも、信用の証ともいうべき炭定規をいつも手元に置き、寸法にくるいがないか、折を見ては新調してきたのだとか。龍善堂に伝わる「商品は嫁入りさせるがごとく扱え」という家訓は、炭一つに至るまで受け継がれている。

江戸・寛政年間から四条のこの地で続く龍善堂。看板も長年受け継がれてきた。と口に茶を学ぶといっても、亭主をつとめられるよう修練を積む人もあれば、趣味として楽しむ人、一度体験してみたいという人までさまざま。繁華街という立地もあるため、気軽にふらりと立ち寄り、何もわからないまま商品を手にする人もある。「そこで求められるままに“売れればいい”と思うようならこの商売は終わり。私たちは商人ですから教えるというものではありませんが、約束事を正しく“お伝えする”ことは忘れてはならない大切な仕事です」。

ちろん茶は型どおりだけでは面白くない。「まず自分たちが茶の心を楽しまなくてはお客様にも伝わらない」という思いから、クリスマスの茶碗をあつらえたり、家庭でもすぐに使える茶箱を考案するなど、新しい提案を続けてきた。「それも基本があってこそ」という笑顔に、京の老舗の温故知新の心が見えた。

茶の湯に使われる炭の種類は多く、写真は左手前から「輪胴」「胴炭」「管炭」「割管炭」、奥左から「割毬打(わりぎっちょ)」「毬打」。

株式会社 龍善堂
京都市下京区四条通河原町西入ル御旅町24
TEL.075-221-2677